私の初登山から数ヶ月経った春のある日。
前回の初登山をプロデュースしてくださった体育会系女子のおふたりが、今度は子どもたちも一緒にいかがですかとお誘いくださったのでした。
なんと優しい方々なのでしょう。
強く生まれた者は、弱き者を助けてくださるのですね。煉獄さん!
しかし娘はいいとして、問題は息子です。
当時は3歳。
男だ女だと分けて育てたつもりはありませんが、息子は「ザ・男ん子」!
自由に動き回るので、特に外では目を離せないというのに、山になんて入って大丈夫?
登山という私自身にも余裕がない状況で、子どもたちのお世話ができるのか、一緒に登る方や他の登山者に迷惑をかけないか、そもそも娘も息子もそんなにたくさん歩けるの…?
疲れたからおんぶとか無理だし。
迷っていると、体育会系女子がひと言。
「私、保育士の免許持ってるから大丈夫ですよ!」
わぁー、心強い。
グラッ。おっと、心の揺れる音が。
「遠慮しなきゃ断らなきゃゾーン」に振り切っていた針が少しだけ「行けるかもゾーン」に向かって動きだしました。
更に、「今回は△△さんも一緒で、息子さん(7歳)も登りますよ。」とのこと。
ほぉー、それいい。
グラグラ。だいぶ揺れてきました。
そして追い討ちをかけるように、「もうひとり一緒に登る予定の□□さんが、息子さんが3歳の頃に登ったルートがあるそうです。」
グラグラ、ガシャーン。
はい、行きます!
行かせていただきます!
ということで、今回は、子どもたちと一緒に初登山です。
特に子どもたちが小さい時期には、夫の不在時に、私ひとりで乳幼児ふたりをを連れて外出するというのが、あまり得意ではありませんでした。
ただでさえ得意ではない「家の外」で、子どもたちにもしものことがあったらと心配で自信が持てなかったのです。
しかしその時は、多少の不安はあるものの、勇気を出して行ってみたいと思う自分がいて驚きました。
こういう変化もやはりキャンプを始めた影響だと思うのです。
少しずつ自信のようなものがついてきたと感じます。
同じ山に別ルートで登りました
前回、私が登ることのできた同じ山に、易しいルートで登ることが決まりました。
たった一度でもその場所に行ったことがあるという安心感。
そして皆さんが初心者の私たちを温かく受け入れてくださったことで、子どもとの登山が実現しました。ありがたい限りです。
私たちを除くメンバーには物足りないのではと思いましたが、皆さんは子どもたちとの登山をイベントとして楽しみにしてくださっていました。
当日は、大人6名、子ども3名の合計9名で登りました。
4月の初めでお天気はよかったものの、風がとても強い日で、標高が上がるほど寒かったのを覚えています。
初めは緊張していた子どもたちも、一緒に歩きながら話をする中で自然と打ち解けていき、和やかなムードで登り進みました。
途中、草で指を切ったお友達(△△さんの息子さん)に、前の晩から準備していた絆創膏を渡すことができた娘は、役に立てたと嬉しそうにしていました。
入学式を数日後に控えていた娘にとって、初めて会った年齢の近いお友達とのやりとりは貴重な体験だったのではと思います。
気配り上手な体育会系女子たちは、こまめに休憩を挟んでくれます。
ぐずった時のためにザックに忍ばせていた、ポカリスエットとラムネを差し出すと、娘も息子も嬉しそうに口にしました。
体のエネルギーだけでなく、心のエネルギーも補給できた様子。
そんな休憩を何度か挟んで、子どもたちにとっては決して楽ばかりではなかった道のりを、想像以上に順調に登ることができたのでした。
仲間と一緒に登るって、いいですね。
励まし合ったり冗談を言い合ったりしながら一緒に頑張れて、気持ちも引っ張ってもらえます。
集団競技の経験に乏しい私は、久しぶりにそういった感情を抱きました。
娘も、そして小さな息子でさえ、みんなが頑張っている様子を見て刺激を受け、励まされているような足取りで、わがままも泣き言も言わずに登頂しました。
そしていいよいよお楽しみの山頂での昼食時間。
あれ以来すっかりその虜になってしまった私は、早速手に入れたシングルバーナーと風防、クッカーでウィンナー入りカップラーメンを準備し、子どもたちと一緒に食べました。
おいしそうに食べていた子どもたちですが、体育会系女子がホットサンドメーカーで作っていたあんバターサンドを見るや、息子は半泣きになりながら「ぼくはおにぎりだったのに、どうしておねえちゃんはパンを食べてるの?」と訴えます。さすがパン好きの息子、目ざとい。
それを見た体育会系女子が、実家のお母さまの手作りあん入りバターサンドを、子どもたちにふるまってくださるという優しい場面もありました。
走りながら下山し、歩きながら眠った息子
昼食を食べてパワージャージした子どもたちは、山頂からの景色をいろいろな角度から楽しんだり、デジカメで虫や草を撮影したり、岩に登って吠えてみたり。
しばらく皆でゆっくり過ごしてから、下山を始めました。
登ってきたのは急な坂道でした。
つまり、下るのも急な坂道というわけです。
あんバターサンドで元気いっぱいの息子は、下りの山道を走る、走る、走る…転げるように走る…
漫画で足が渦巻きになっている絵のように、足が勝手に動いて止まらないほどに走りながら下っていきます。危なさMAXです。
しかも、この山には登山道にほとんど木がなくて、ぶつかって止めてくれるものもありません。
いえ、ぶつかって止まったとしても充分危ないのですが、このままでは止まらなくなって下まで転げ落ちてしまうのではという勢いに、私も追いつけません。
あぁ! やっぱりこれが息子だ!
一緒に登ったベテランハイカーさんが、全力で走って息子を捕まえてくださり事なきを得ましたが、ヒヤッとした一瞬でした。
***
すっかり打ち解けたメンバーに両手を引かれながらご機嫌で下山していた息子でしたが、あと20分程で登山口に戻るというところで、歩くスピードをガクンと落としました。
歩きながら船を漕いでいます。
お? と思って時計を見ると15時過ぎ。
毎日保育園で、12時過ぎから15時までお昼寝している息子が、今日はお昼寝どころか、一日中歩いての今。
それは眠いはずだ。
よく頑張りました。
体育会系女子の旦那様が、眠りながら歩いている息子を見かねてザックを肩から降ろし、「おんぶするよ!」としゃがんでくださいました。
そのまま背中になだれ込むかと思いきや、私の方を見て「…ママ、いいの…?」と息子。
気絶しそうな眠さの中でも私にその許可を得ようとするほどに、今日の息子は気を張っていたんだなぁ! 迷惑をかけずに自分の足で最後まで歩くことを考えていたんだなぁ! と嬉しくなりました。
駐車場まで続く道を、背負ってもらいながら眠った息子は、車に乗せても引き続き爆睡。
車の隣で輪になって皆で整理運動をしている間も目を覚ますことなく、深い眠りに落ちていました。
目を覚ました自宅の駐車場で、まず急に場面が変わったことに驚き、皆ときちんとお別れできなかったことに涙していましたが、こんなにがんばったふたりに何かご褒美をあげたい! と思って取り出したアイスクリームによって何とか笑顔を取り戻しました。
普段は夕食前にアイスクリームなんて食べさせてもらえないところを、その日だけは特別に。
私も一緒に食べましたが、この日のアイスクリームの美味しさは格別。
きっとずっと忘れないと思います。